職場ストレス予防と対応マニュアル

チームの心理的安全性を高める「承認」の技術:リーダーが実践する具体的な声かけと評価

Tags: チームマネジメント, 承認, 評価, 心理的安全性, ストレス予防, リーダーシップ

はじめに:リーダーシップにおける「承認」とストレス予防

ITチームを率いるリーダーの皆様は、日々のプロジェクト推進に加え、メンバーのモチベーション維持やメンタルヘルスケアにも心を配られていることと思います。特に、納期プレッシャーや技術的な課題が多い環境では、メンバーが知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでしまうことも少なくありません。

このような状況で、チームのストレスを予防し、メンバーが安心して能力を発揮できる環境を作るために、リーダーが意識したい重要な要素の一つが「承認」と「評価」です。単に成果を評価するだけでなく、メンバーのプロセスや存在そのものを認め、適切に伝えることは、チームの心理的安全性を高め、結果としてストレス耐性の向上やエンゲージメント強化につながります。

本稿では、なぜ「承認」がチームのストレス予防に有効なのかを解説し、ITチームリーダーが現場で今日から実践できる具体的な承認の技術や、評価をストレス軽減につなげる方法についてご紹介します。具体的な声かけフレーズも交えながら解説しますので、ぜひ日々のチームマネジメントにご活用ください。

なぜ「承認」がチームストレス予防になるのか

承認とは、メンバーの貢献や努力、存在を認め、尊重する行為です。この承認が、チームのストレス予防やメンタルヘルス向上に効果的な理由はいくつかあります。

  1. 自己肯定感・貢献感の向上: 自分の仕事や存在が認められていると感じることで、メンバーは自己肯定感を高め、チームへの貢献意欲が増します。これは、ストレスに対するレジリエンス(回復力)を高める上で重要な要素です。
  2. 心理的安全性の醸成: リーダーや他のメンバーから承認される経験は、「ここでは自分は受け入れられている」「安心して意見を言える」「失敗しても大丈夫」という心理的な安全性につながります。心理的安全性の高いチームでは、課題や困難を一人で抱え込まず、チームで協力して乗り越えやすくなるため、ストレスが軽減されます。
  3. 関係性の強化: 承認は、リーダーとメンバー間、あるいはメンバー同士の信頼関係を深めます。良好な人間関係は、職場における最も重要なストレス緩衝材の一つです。
  4. エンゲージメント向上: 承認を通じて、メンバーは自分の仕事に価値を見出しやすくなり、組織へのエンゲージメントが高まります。エンゲージメントが高いメンバーは、困難な状況でも前向きに取り組む傾向があり、ストレス要因に対処しやすくなります。

このように、承認はメンバー個人の内面にポジティブな影響を与え、それがチーム全体の良好な雰囲気と協力体制を築き、結果としてストレスを予防・軽減する力となるのです。

実践!チームリーダーのための具体的な「承認」の技術

「承認」は特別な機会だけでなく、日々のちょっとしたコミュニケーションの中に散りばめることが重要です。ここでは、具体的な承認の種類と、日常の様々な場面での実践方法をご紹介します。

承認の種類を知る

承認にはいくつかの種類があります。これらを組み合わせて使うことで、より多角的で効果的な承認ができます。

日常のコミュニケーションでの承認例

会議中、オフィスでの会話、チャットツールなど、様々な場面で使える具体的な声かけ例です。

1on1での深い承認とフィードバック

1on1は、日常会話よりも時間を確保し、じっくりと向き合える場です。ここでは、より深い承認と、成長を促すフィードバックを組み合わせることが効果的です。

「承認」の際の注意点

承認は量だけでなく質も重要です。以下の点に注意することで、より信頼性の高い承認になります。

「評価」をストレス軽減につなげるには

評価面談などは、メンバーにとって期待と不安が入り混じるストレスフルな場面になることもあります。しかし、評価の場を適切に活用することで、かえってメンバーのストレスを軽減し、成長を促す機会に変えることができます。

  1. 評価基準・期待値を明確にする: 何が評価されるのか、事前に明確に伝えることで、メンバーは安心して仕事に取り組めます。「なぜ評価が低いのか分からない」という状況は大きなストレスになります。
  2. 評価は「過去の断罪」ではなく「未来への投資」と捉える: 評価結果を単に伝えるだけでなく、その評価に至った理由を丁寧に説明し、今後の成長のために何が必要か、リーダーとしてどのようにサポートできるかを具体的に話し合います。
  3. 双方向のコミュニケーションを重視する: リーダーから一方的に伝えるだけでなく、メンバーの自己評価や、評価に対する考えを聞き、対話を通じて理解を深めます。
  4. ネガティブフィードバックも成長の機会として伝える: 改善が必要な点を伝える際は、人格を否定するのではなく、特定の行動や結果に焦点を当て、「〇〇という目標を達成するためには、△△という行動を改善できると、より効果的だと思います」のように、あくまで成長のための建設的な提案として伝えます。
  5. 必ずポジティブな点、貢献を伝える: 改善点だけでなく、今回の期間での良かった点、チームへの貢献を具体的に伝えることを忘れてはいけません。これにより、メンバーは自身の価値を再認識し、次の期間へのモチベーションを高めることができます。

評価面談で心理的安全性を確保するための具体的な声かけ例:

チーム全体で承認文化を醸成する

リーダー一人の承認だけでなく、チームメンバー同士が互いを承認し合う文化が根付くと、チームの心理的安全性はさらに高まります。

まとめ

チームリーダーが日々のマネジメントの中で意識的に「承認」と「評価」を行うことは、メンバーの自己肯定感を高め、チームの心理的安全性を醸成し、結果としてチーム全体のストレスを予防する非常に有効な手段です。

単なる形式的な言葉ではなく、具体的な行動やプロセス、そして存在そのものに対して、タイムリーに、本心から伝えることが重要です。また、評価の場を過去の断罪ではなく、未来の成長のための対話の機会と捉えることで、メンバーのモチベーションとエンゲージメントを高めることができます。

今日から、ぜひ一つでも良いので、本稿でご紹介した具体的な承認の声かけや評価のスタンスを実践してみてください。日々の小さな積み重ねが、メンバーの安心感と信頼を育み、ストレスに強く、成果を出し続けられる強いチームへと繋がっていくはずです。